日中翻訳理論「カタカナ語の中国語翻訳について」

(一粒中国語教室の代表者 李 維娥の修士論文の考察結果)

以下では、翻訳・通訳をしている一粒中国語教室の代表者である李の翻訳に関する修士論文です。
日本語から中国語(あるいはその反対)への翻訳方法を学ぶだけでなく、翻訳理論をきちんと把握することにより、より正確な翻訳を心がけております。
下記は修士論文の一節ですが興味がある方はご覧ください。

1.言語構造は翻訳方法に強く影響する。

中国語は「表音文字」ではなく、「表意文字」を使う言語であるために、外来語を「音訳」で輸入しにくく、「意訳」の方法に偏る結果をもたらしている。
たとえ一時的に音訳されたものでも、結局意訳へ転換する傾向がある。
「ビタミン」や「レーザー」、分析データからの「バス」などは「音訳」から「意訳」へ変わった例である。
また、中国語は方位詞が必ず名詞や名詞フレーズに後置された形で用いられる特徴や、分類の仕方による補足との特徴によって、「文中補足」の使用率が高くなる。

それぞれに対応する例を挙げると、「ベッド」は”床上”、「アニメーション」は”動画片”などがある。

2.中国人は「意訳」を好む文化・習慣を持つと思われる。

考察で論じた通り、中国人は字面上から意味を捉える習慣があり、「意訳」を好む傾向がある。

その理由として、中国の外国文化に対する受け入れ形態が「統一志向」文化であること、そして、中国の文化摂取形態が「一部摂取型」であることに強く関係していると考えられる。

また、多くの方言を持つ中国語は、「表音」では全国に普及できないため、「表意」にしなければならない点も挙げられる。
本研究の分析結果からみると、「意訳」は66.5%を占め、音訳はわずか2.25%の割合であったことも、中国人は「意訳」を好むという推測と一致している。

3.翻訳方法は作品の内容や分野そして対象読者などに影響される。

データ分析から例を挙げてみると、「マイナス」は文字で訳されているのでなく、記号である「-」で訳されている。
その理由は、その著書の内容が「数式」を巡った小説であるからだと考えられる。また、『愛・地球博公式ハンディブック』という作品は、ほかの3作品より、「省略・簡略化」の方法が圧倒的に多く使用されている。
それは、この作品の分野はガイドブックということで、より簡潔に情報を提供するというような目的が働いているのではないかと考えられる。

また、考察で述べたように、非文学の2作品とも「借用法」が使用されているのに対して、文学作品のいずれにもその使用例はなかった。その理由は、非文学の2作品ともが、専門書に近い著書であり、対象読者は比較的高い教育を受けているからだと推測できる。
英語を借りて訳しても理解してもらえると翻訳者が考えたのだろう。
最後に、翻訳方法が複数存在する際は、翻訳者は選択肢が与えられている。例えば、分析のデータによると、「トースト」には音訳の”土司”と意訳の”?面包”があった。
どちらを選ぶのかは翻訳者次第であろう。

4.翻訳方法は社会背景に左右される。

現在のところ、中国語の外来語は「意訳」が圧倒的に多く、ある言葉が輸入されて間もない頃は「音訳」であったものも、その後意訳に代っていく傾向が見られる。

しかし、最近、その逆の動向も見られ、最初「意訳」されたものが「音訳」の語に変わる場合もある。
例えば、日本の人気アニメの「ドラえもん」は中国語で「機械猫」と意訳され、そして定着していたが、数年前から音訳の「多?(ドウーラー)A(エー)梦(モン)」に取って代わられた。
また、例の「ミニスカート」も「意訳」の”超短裙”から「音義分訳」で訳された”迷你裙”に代えられた。
外的な影響を受け、「意訳」から「音訳」に代った例としては、都市の名前である「ソウル」が挙げられる。
韓国の首都である「ソウル」は2005年までは中国語で「漢(ハン)城(チェン)」と表記されていたが、韓国政府の要請により、現在は音訳の「首尓(ソウア)」 として表記するようになった。
そして、時代の影響によって「音訳」が「意訳」に代わり、再び「音訳」になるケースもある。
例えば、バスやタクシーは、中国語に導入された当初は、音訳された。

しかし、当時、中国人は外来物・外来文化に対して抵抗感が強く、訳語は意訳である”公共汽車””出租車”に取って代わられた。
改革開放後、外来物に関して抵抗が薄くなったことによって、音訳語が復帰し、現在は主流になっている。
「バス」という語について、陳(1992:135)は、文化大革命(1966~1976年)の間は「公共」を使わずに、特別な意味を持つ「人民」を使用し、”人民汽車”と呼ばれたと記している。
それは、当時の中国国内の政治による影響だと考えられる。

5.時間や空間が翻訳方法を変えることがある。

時代の違いで、翻訳方法が異なる可能性がある。
例えば、「スーパーマーケット」は、現在は直訳(本論文では「組合せ意訳」という)した”超級市場”の方が主流になっているが、以前は「自選市場」と訳された。
この語に対して、陳(1992:121)は、「この新語は、西洋のスーパーマーケットを直訳した”超級市場”と比べてみると、中国語の習慣によりいっそうマッチし、より的確にこの新しい事物の本質を表している。
そこで、ますますわが国の人々に親しまれた。」という。
また、日本ほどではないが、同じ言葉が複数の言い方を持つケースも出てきている。王(2004:200)によると、「E-mailは現在のところ、”伊妹儿(yi meir)””电子(dianzi)信(xin)”,”电子;邮(dianzi you)件(jian)””电邮”のいくつかの言い方があり、特に若者の口語では音訳された”伊妹儿(yi meir)”が優勢のようである」という。

先ほど挙げたバスやタクシー、ミニスカートなども同じように、音訳が主流になっているようだが、意訳の語も共に生存し、若者は音訳が好ましいと考えるようである。
これらの例から見ると、翻訳方法は年齢層及び英語に対する理解度による差も大きいといえよう。

さらに、グローバル化社会の発展によって、外国文化を積極的に受け入れる外的な影響が働いていると考えられる。
以上のように、翻訳方法は不変のものではなく、様々な要素に影響される変動的なものである。
また、唯一の適用方法があるというわけではなく、複数の方法が存在し、翻訳者に選択の余地を与えているといえよう。

翻訳方法は単一の要素より、複数の要素に影響される場合が多く、翻訳方法の使用の決定は総合的な判断でなされていると考えられる。


このように、本研究で行った分析から、翻訳方法に影響を与える要素をまとめてみたが、もう一つ言えることは、中国語のリーダー的な存在である「意訳」も万全な翻訳方法でないということである。
意訳によるカタカナ外来語の効果のロスという問題点、国際性に欠けるという問題点、グローバル化の発展に追いつかないという問題点などが挙げられる。

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